テクノの剣でハウスを裁くっ!

やっかいな(でも魅力的な)隣人との付き合い方


 テクノとハウス、それは時に「同じも
のよ」と言われ、またある時は「一緒に
すんな」と言われてしまう微妙〜な関係
の二人。いったいどーなってんの? と
お悩みのアナタに贈る、デジビ流ハウス
特集〜!
        
「ハウスとは、ハウスDJがクラブでか
ける音楽」。こういう考え方は、ハウス
の起源を故ラリー・レバン('70年代中
盤からNYで活躍したDJ。ソウルやデ
ィスコはもちろん、初期テクノやエレポ
ップ、プログレもかけた)の「何でもア
リ」スタイルに求めるところからくる。
一部のハウス関係者が「テクノはハウス
の一種」と断じるのも、これでうなづけ
る。ハウスDJがテクノをかければ、そ
れは「ハウス」なのだから。
 そうした「ハウス」の領域が、クラブ
という空間に依存して成立しているのに
対し、テクノの領域はクラフトワーク以
来の歴史的時間が規定している。あやう
く拡散してしまいそうになったその「歴
史」を、デトロイトの人々は強引に自分
勝手な方向へねじ曲げた。それでいい、
それが「テクノ」。そして、初期テクノ
という媒介なくしてハウスもヒップホッ
プもありえなかったワケだから、それら
もまた「テクノの一部分」という見方も
成り立つわけだ。

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PLEASURE DOME
「12 MIN. OF DREAMS」SEX MANIA/SEX 011
いまNYハウス界で注目は、DJデューク率いる
「パワー/セックス」グループ。これウッフン系
かと思ったら、何とマジメ〜な演説ネタ

 '70年代テクノ、ミュンヘンディスコ、
電子ヒップホップ、そしてPファンク…
と並べていくと、今日のテクノとハウス
は、大部分同じ要素からできていること
がわかる。実際、デトロイトテクノには
ハウスにしか聞こえないものも多い。し
かしサウンドや方法が似ていても、アチ
チュードが違う。そして「ハウス」に関
しても、そのルーツをNYのパラダイス
ガラージ(レバンが廻していたハコ)に
求めるか、シカゴのウェアハウスに求め
るかによって、大きなイメージの違いが
あるはず。
 洗練されて享楽的なNYに対し、工場
労働者の多いシカゴでは、荒削りな電子
リズムが好まれた。ジャンルとしてのハ
ウスは、ここで'80年代中盤に誕生した
ものだ。間接的にレバンの影響を受けた
シカゴのDJたちは、当初こそ「昔のソ
ウルに808のビートをカブセただけ」の
レコードを作っていたが、やがてそのシ
ーンから多くの傑作を産み出した。近郊
のデトロイトと刺激しあいながら、今や
そのリズムは世界のポップ地図を完全に
塗り替えたのだ。

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「MARK THE 909 KING」SEXTRAX/ST-006
コレも同グループから。前作も紹介、909キングの
新作はさらにグ〜! まったくスキのない極上アシッド

 デーモン・ワイルド様は「ハウス」を
嫌う。「トッド・テリーの頃は良かった
けど、今じゃNYはクソみてーな商業ガ
ラージばっか」。一方、ワイルド様も敬
愛するシカゴアシッドの武士たちは、ウ
ェアハウス以来の伝統とアンダーグラウ
ンドの魂を守ってきたという誇りをもっ
て「ハ〜ウス!」と叫ぶ。言葉は同じだ
が、これらは同じ「ハウス」ではない。
 故意に歴史(差異)を消却しながら、
世界の音楽遺産を平板なダンスものに置
き換えるだけのダメなハウス。と、民衆
と連帯しながら人間−機械の新しい表現
を追求し続ける素晴らしいハウス。これ
らはまったく紙一重の存在。ちょうどテ
クノ界にも、意味もなく電子音をタレ流
して一丁アガリのフヌケと、電子に魂を
込めることのできる勇士がいるように。
誰もが気軽に「愛こそメッセ〜ジ」と口
にするが、やがてニセモノは耳を腐らせ
るだろう。困難だが、ホンモノを探し続
けるしかない。


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