NYテクノの特徴といえば、ベルトラム(p.4参照)以来一貫して「非人情」。そして近 年はそれに、白人ぽさ(非ハウス的)とアシッドへの傾斜が加わった。その張本人こそデーモン・ワイルド。昨年エクスペリメンタル(EX)からエキノックスや303システムなどのユニットでヒットを連発し、シーンのほとんどの要員と共作しつつ、紐育をアシッドトランスの牙城にした。今年からはサインウェーブNY(SW)というレーベルを足場に活躍、今やNYの大親分!
ところがそんなワイルド様も、旧作ではかなりアホっぽいレイブものをやっていたりする。さらには越美晴の名曲をサンプルったりして、親日家かな? 野蛮なアシッド狂、というイメージが強いけど、意外にも共作では自分を抑えるようなところがあり、大物ベルトラムとの合体盤(SW05)では、何かお互いに遠慮しているような感じ(駄作じゃないけど)。一方、長年の相棒ティム・テイラーとの「バング・ジ・アシッド」(SW03)は文句なしの名盤(ただし、B面は完全にミゾなし無音。うう)。モーフ(ワイルドとデニス・フェラー)名義のアルバムでは、こりゃまたどーしてインテリ風。でも彼、ホントはこういう叙情性とかに持ち味があるのかも。
STORM「THE ART OF SYNC」 DJAX-UP-202 今特集、もっともオススメできる作 品。最初は「とりつくシマもねーぢ ゃん」と思うけど、いつしかハマる。
デジビがどーしても応援したいのは以下3人の根性曲がり、すなわち紐育のフダ付き 変質者たち。まずスティーブ・ストールはワイルドを親分とするSWの代貸的存在で、 その作風はてんでサービスのないミニマル(よーするに単調)アシッド。最新作(SW06) では掟破りの5拍子テクノを披露しているが、ジャックスから出た芸名ストームでの2 枚組が空前! 電子のナマナマしい息づかいが嵐となって襲来、ググゥ〜ッ! この傑作 に出会っていなければ、NY特集なんて思い付きもしなかった。
次のフレディ・フレッシュはEXやドロップベース(NYにはこの他ダイレクトドラ イブ、アストラルワークス、ISTなどのレーベルが存在)、それに独逸レイブワークス などからクソうるせーハードアシッドと落ち着かないアンビエント(?)を出している困 り者。最初「なんてヤな奴!」と思ったが、何曲も聞くにつれ、その一貫してねじけた 作風に好感。ウルサいだけのようでいて、実は独特の詩情があり、唄がある。DJの「 爆弾」として使われるだけではもったいない。最新作(DROPBASS/DBR014)ではかなり社会 復帰しており、大物に化ける日も近いかも?
MORPH「STORMWATCH」BEECHWOOD/ELEC 11CD 英国インテリ派の拠点から、なぜワイルド様が? 本当はこーいう、アクの少ない人なのか?
最後のウッディ・マクブライドは活躍の場がフレッシュとほとんど同じ、しかもDJ・ESP名義では作風もフレッシュそっくりのやかましい303モノだが、音楽的にはずっと濃い。本名では妥協なきミニマルアシッドを展開する。
ウッディ。ドロップベースからの『バッドアシッド』(DBR003)は、サスキア嬢も絶賛の特選盤。最近自分のレーベルを設立し、第1弾の7インチ3枚組を出したのはイイが、ジャケットには何のクレジットもナシ。アングラ映画のスチールみてーな、ヘン過ぎる男(本人らしい)の写真だけ。売る気あんの? しかし内容はデリ〜シャス、各面3分で終わっちゃうのが残念。アシッドにはウルサい本誌を完全にKOしたウッディ、マジで注目!
と書いた直後、レイブワークスから出たウッディのCD(芸名4D、LAB 62CD)を購入。これはわかりやすい分ちょっと物足りないが、ぬぁんと「ミネアポリスで録音」という。す、すると…? それでも「NYシーンの一員」、ということで許してねっ。
少年時代はブルックリンの落書き小僧。やがてヒップホップDJになったベルトラムは'80年代半ば、製作に転じようと決意。ムリして買い集めたリズムマシンや数台のテレコで実験を繰り返すうち、いつのまにかテクノ者に変身。そしてハウス界の片隅での活動を経て'91年、R&Sから「エナジーフラッシュ」を発表。大ヒット。デリック・メイにも認められ、彼は一躍英雄になったのだ。
それから3年。かつてのイカした非人情さを超えて、彼の近作は生きた感情を伝えている。『ファズトラックス』(X-SIGHT TRAX/XS-EP-3)、『キャリバー』(WARP/WAP 49CD)、いずれも素晴らしい。精密なリズム、独自かつ絶妙の音色とバランス。そして、いいようのない悲しみが心に突き刺さる。これはどこから来るのか?
「NYの街ったらラップ一色。あんなの焼き直しばっかだし、ネガティブでヤだよ。だから自分をスタジオに閉じ込め、慰みに曲を作るのさ。世界中DJで旅しても、気分は自分ちの裏庭にいるのと同じなんだ」
……ムリしてでも元気を出せ、なんて言いはしないけど、でも、この叫びだけはブルックリンに届け。「ボクたちはあなたが大好きだ」と。
JOEY BELTRAM「AONOX」 BARRAMUNDI/BAR 6206 珍しくスロー中心の最新アルバム。 彼の心の世界。ありありと伝わってくる。
Nogucci Harumi < MGH03372@niftyserve.or.jp >