クラフトワーク

足したり、引いたり


 うっかり忘れていましたが、今年クラ
フトワーク(以下K)は活動25周年。お
めでとござま〜す! で、「これをイイ
機会」と、彼らについて。

 Kといえば「偉大なテクノの元祖」は
当然だが、ハウスヒップホップ騒音ダブ
工業エレクトロ...すべての今日的ポッ
プ(?)の現場で、絶対の尊敬を集めて
いる。逆に言うとKの音楽には、いま言
う「テクノ」にはとうてい収まりきらな
い拡がりがある。

 本誌1号にも書いたけど、音楽制度解
体のため既成ポップをメッタ斬りにして
きたのがK。そしていつしか頂点をきわ
めた彼らは、自分によって流された大量
の血に気づいて驚いただろう。『人間解
体』('78年)までのKは暴虐のテロリ
ストだったが、『電脳世界』('81年)
以降の活動には「優しい独裁者」の趣き
がある。彼らの上には誰もいない。すべ
てのシーケンサを使っている「ポップ」
業者は、事実上Kに屈服している。彼ら
はKが解体したポップの残骸を、ブザマ
に弄んでいるだけ。

 (42k, jpg)

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 そうして高まったKの虚無感は、『エ
レクトリックカフェ』('86年)に結実。
これは「核の冬」を幻視してのポップ。
人類が滅んだ後、自動機械による音楽だ
けが、ピコポコと響き続ける...「工業
の律動は遍在。音楽の理想は永遠に」。
発達する電信網はけっしてカンジンな相
手に届かないし、セックスは互いを道具
にするだけの行為...。なんという絶望!
これが、Kの目に映った'80年代なのだ。

 この絶望の延長上に、ネガティブな工
業音楽を建設するのはうなづける行為。
しかし、ある種の人々はそれをしなかっ
た。その理由は「バカだから」でも何で
もいい! こともあろーにKを「ファン
キ〜で電気来まくりでカッチョい〜」と
だけ解釈したのがシカゴハウスで、Kの
憂愁を底辺の視点から再解釈したのがデ
トロイトテクノ。彼らが育ててきた音楽
を、今わたしたちはテクノと呼んでいる。
それは絶望に抗するリズムの持続であり、
官僚的技術体系を民衆的に解体再構築し
ながら、人々を希望の闘いへと駆りたて
る力。

 (50k, jpg)

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K25周年記念トリビュート集。ヒネ
りまくったデジタルス、そしてGNPの
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 本誌の予想では、今日の「テクノブ〜
ム」がポシャるまで、Kの新作発表はな
いと見る('81、'86、そして'91の『ザ・
ミックス』と、Kの近作は必ずテクノの
スキマ期に届けられた。それって善意?)。
彼らの超名曲「ロボット」を、ピストル
ズ「神よ女王を...」への回答と見るよ
うな視点は、絶対に必要。しかしKの出
番が必要なくなるまでに、今わたしたち
が闘い抜かなくてはならない。

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